土地活用への第一歩として空き家の解体を考えたとき、多くの人が直面するのが、この「手続き」という壁です。
解体工事は、単に建物を壊すだけでは終わりません。工事の前にも後にも、様々な行政への届出や申請、近隣への配慮など、やるべきことが数多く存在します。
これらの手続きを怠ると、法律による罰則を受けたり、後々の土地売却や活用に支障が出たりと、思わぬトラブルに発展しかねません。
そこでこの記事では、空き家を解体する際に必要となる手続きの全体像を、順を追って分かりやすく解説します。
工事前にやるべきことから、解体後に必須の届出、さらには相続が絡む場合の複雑な手順まで、網羅的にご紹介します。
目次
空き家を解体する際の手続き
空き家の解体は、解体業者を見つけて依頼すれば終わり、というわけではありません。工事を開始する前に、施主として、あるいは業者と協力して行わなければならない手続きや準備がいくつかあります。
これらを着実に進めることが、トラブルのないスムーズな工事の鍵となります。
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解体工事を届け出る
解体する建物の延べ床面積が80㎡(約24坪)を超える場合、「建設リサイクル法」に基づき、工事開始の7日前までに、都道府県知事への届出が義務付けられています。この法律は、解体工事で発生したコンクリートや木材などの資材を、適切に分別・リサイクルすることを目的としています。
届出は、原則として施主(発注者)が行うことになっていますが、委任状を作成すれば解体業者が代行してくれるのが一般的です。ほとんどの住宅が対象となる重要な届出なので、業者に依頼する際に必ず確認しましょう。
道路使用許可を申請する
解体工事では、工事車両を前面道路に一時的に駐車したり、廃材を運び出すためのトラックを停めたり、クレーン車を設置したりと、公道を使用する場面が多くあります。
このように、道路を工事で一時的に使用する際には、管轄の警察署長に対して「道路使用許可」を申請し、許可を得る必要があります。
この申請手続きは、通常、工事を行う解体業者が行います。無許可で道路を使用すると法律違反になるため、信頼できる業者であれば当然行うべき手続きですが、念のため契約時に確認しておくとより安心です。
ライフラインを停止する
建物に引き込まれている電気、ガス、電話、インターネット回線などは、解体工事の前に停止の手続きが必要です。それぞれの契約会社に連絡し、解体工事を行う旨を伝えて、閉栓や契約解除の手続きを進めます。
特にガスの撤去は、ガス管の切断作業が必要なため、依頼から完了まで時間がかかる場合があります。解体工事の日程が決まったら、早めに連絡をしておきましょう。
一方で、水道に関しては注意が必要です。解体工事では、粉塵の飛散を防ぐための散水や、重機の洗浄などで大量の水を使用します。そのため、水道はすぐに停止せず、工事が完了するまで契約を継続しておくのが一般的です。工事完了後に、解体業者からの連絡を受けてから停止手続きを行いましょう。
挨拶回りに行く
法的な手続きではありませんが、近隣への挨拶回りは、トラブルを未然に防ぐために極めて重要です。解体工事は、騒音や振動、粉塵の発生、工事車両の出入りなど、どうしても周辺住民の生活に影響を与えてしまいます。工事開始の1週間〜10日前までには、解体業者と一緒に、両隣と向かいの3軒、そして裏手の家など、影響が及ぶ可能性のある範囲に挨拶に伺いましょう。
工事の期間や内容、作業時間、緊急連絡先などを伝えた上で、タオルや洗剤といった粗品を渡して理解と協力を求めるのがマナーです。丁寧な挨拶があるかないかで、近隣の方々の心証は大きく変わります。
特定粉じん排出等作業実施届出書を提出する
解体する建物に、発がん性物質であるアスベスト(石綿)が使用されている可能性がある場合、手続きはより複雑になります。大気汚染防止法に基づき、一定規模以上の建物を解体する際には、事前にアスベストの有無を調査することが義務付けられています。調査の結果、吹付けアスベストなどの飛散性の高いアスベストが使用されていた場合、工事開始の14日前までに、都道府県知事などへ「特定粉じん排出等作業実施届出書」を提出しなければなりません。
この届出やアスベストの除去作業は、専門的な知識と技術が必要なため、資格を持つ解体業者が行います。
家具や家電を処分する
解体工事は、建物の中が空っぽの状態で始めるのが大原則です。もし、家具や家電、布団、衣類などの家財道具(残置物)が残っていると、その処分は解体業者に依頼することになります。
しかし、業者が処分する場合は、これらを「産業廃棄物」として扱うため、自治体の粗大ごみなどで自分で処分するよりも費用が格段に高くなります。残置物の量によっては、処分費用だけで数十万円にのぼることも珍しくありません。解体費用を少しでも抑えるため、そして工事をスムーズに始めるためにも、家財道具は事前に自分で片付けておくことが非常に重要です。
空き家を解体したあとに必要な手続きは?
無事に解体工事が完了しても、それで終わりではありません。建物を壊した後にも、法的に義務付けられている重要な手続きが残っています。
これを忘れると罰則の対象となるため、必ず行いましょう。
建物滅失登記申請
建物を取り壊した場合、所有者はその日から1ヶ月以内に、法務局で「建物滅失登記(たてものめっしつとうき)」を申請しなければなりません。これは不動産登記法で定められた義務です。
この登記を行うことで、法務局の登記簿上から、その建物が存在しなくなったことが記録されます。手続きは、土地家屋調査士に依頼するのが一般的ですが、自分で申請することも可能です。ただし、必要書類の準備などに手間がかかるため、専門家に任せる方が確実でスムーズでしょう。
必要書類
建物滅失登記を自分で行う場合に、一般的に必要となる書類は以下の通りです。
- 登記申請書: 法務局のウェブサイトからダウンロードできます。
- 取り壊し証明書(建物取毀証明書): 解体業者から発行してもらいます。
- 解体業者の印鑑証明書・代表者事項証明書: 上記証明書に押印された印鑑が本物であることを証明するために必要です。
- 案内図(住宅地図のコピーなど): 建物の所在地がわかる地図です。
- 委任状: 土地家屋調査士などに依頼する場合に必要です。
これらの書類を揃え、建物の所在地を管轄する法務局に提出します。
水道の停止
解体工事中は、散水などのために使用していた水道ですが、工事が完了すれば不要になります。解体業者から工事完了の報告を受けたら、速やかに水道局(または契約している水道会社)に連絡し、使用停止(閉栓)の手続きを行いましょう。
これを忘れると、使っていなくても基本料金がかかり続けてしまいます。
固定資産税に関連する手続き
建物滅失登記を行えば、その情報が法務局から市区町村の税務課に通知されます。これにより、翌年度からの家屋に対する固定資産税は課税されなくなります。
ただし、自治体によっては、滅失登記の情報がすぐに反映されない場合や、家屋調査の都合で連絡を求められることもあります。
念のため、解体が完了した旨を、管轄の役所の資産税課(固定資産税担当課)に電話などで一報入れておくと、手続きがよりスムーズに進み安心です。
空き家を解体する際に手続きが不要なケース
基本的に、登記されている建物を解体した場合は、前述の建物滅失登記が必須となります。しかし、ごく稀に、登記簿に登録されていない「未登記」の建物が存在します。
未登記建物には、登記簿そのものが存在しないため、法務局で行う建物滅失登記は不要です。しかし、注意が必要なのは、未登記であっても市区町村の固定資産税課税台帳には登録されており、固定資産税が課税されているという点です。
そのため、未登記建物を解体した場合は、法務局ではなく、その建物が所在する市区町村の役所(資産税課など)に対して、「家屋滅失届」を提出する必要があります。この届出をしないと、実際にはもう存在しない建物に対して、固定資産税が課され続けてしまうことになります。
つまり、法務局での手続きは不要でも、役所での手続きは必要になる、ということです。ご自身の空き家が未登記かどうかは、法務局で登記事項証明書が取得できるかどうかで確認できます。

亡くなった方の家を解体する場合の流れは?
親から相続した家など、亡くなった方の名義のままになっている空き家を解体する場合は、手続きがさらに複雑になります。通常の流れに加えて、相続に関する手順を踏む必要があります。
ステップ①名義人を確認する
まず、その空き家の法的な所有者が誰になっているかを確認します。法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得し、所有者欄に記載されている名義人を確認します。この名義人が亡くなった方のままであれば、相続手続きが必要になります。
ステップ②抵当権の有無を確認する
登記事項証明書では、所有権だけでなく「抵当権」が設定されているかどうかも確認します。抵当権とは、住宅ローンなどを借りる際の担保として、金融機関が設定する権利のことです。もし住宅ローンが完済されておらず抵当権が残っている場合、勝手に建物を解体することはできません。まずは金融機関に相談し、抵当権を抹消するための手続きを進める必要があります。
ステップ③法定相続人で話し合いを進める
建物の名義人が亡くなっている場合、その建物は法定相続人全員の共有財産となります。建物を解体するという行為は、財産の「処分行為」にあたるため、相続人全員の同意がなければ進めることができません。一人でも反対する人がいれば、解体は不可能です。遺産分割協議などを通じて、相続人全員で解体することに合意し、解体費用を誰がどのように負担するのかも明確に決めておく必要があります。この合意形成が、相続物件の解体における最も重要なステップです。
ステップ④解体を依頼する
相続人全員の合意が得られたら、代表者を決めて解体業者と契約し、工事を進めます。ここからの流れは、通常の解体手続きと同様です。ただし、この時点ではまだ建物の名義は亡くなった方のままです。解体後の建物滅失登記をスムーズに行うため、並行して相続登記の手続きを進めておくのが望ましいでしょう。
ステップ⑤建物滅失登記をする
解体工事が完了したら、1ヶ月以内に建物滅失登記を行います。この登記の申請人になれるのは、原則として、登記簿上の所有者またはその相続人です。相続登記を済ませて、新たな所有者(相続人)の名義で滅失登記を行うのが最もスムーズです。相続登記が間に合わない場合は、亡くなった方の名義のままでも、戸籍謄本などで相続関係を証明することで、相続人の一人から滅失登記を申請することが可能です。
建物滅失登記を忘れたらどうなる?
解体後の建物滅失登記は、法律で定められた義務ですが、ついうっかり忘れてしまうと、様々な不利益を被る可能性があります。
まず、不動産登記法では、正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料(罰金のようなもの)に処せられると定められています。実際に科されるケースは稀ですが、法律違反であることに変わりはありません。
また、登記簿上は建物が存在し続けるため、市区町村がそれを基に固定資産税を課税し続けてしまう恐れがあります。実際には存在しない建物に対して、無駄な税金を払い続けることになりかねません。
さらに、将来その土地を売却しようとしたり、家を新築するために金融機関から融資を受けようとしたりする際に、大きな支障が出ます。登記簿と現況が一致しないため、売買契約や融資の審査が進まないのです。結局、その時点で慌てて滅失登記の手続きをすることになり、余計な手間と時間がかかります。
解体が終わったら、速やかに滅失登記を行うことが、将来のトラブルを避けるために非常に重要です。
空き家を解体したあとの注意点
解体工事とそれに伴う手続きが全て完了し、土地がきれいな更地になっても、まだ安心はできません。更地になったからこそ生じる、新たな注意点について理解しておく必要があります。

注意点①固定資産税が増額される可能性がある
解体における最大の注意点とも言えるのが、固定資産税の問題です。土地の上に住宅が建っている場合、「住宅用地の特例」により、土地の固定資産税は最大で6分の1にまで軽減されています。しかし、建物を解体して更地にすると、この特例が適用されなくなります。その結果、解体翌年から土地の固定資産税が最大で6倍に跳ね上がってしまう可能性があるのです。解体前に、税額がどれくらい増えるのかを必ず把握し、その負担を賄えるだけの土地活用の計画を立てておくことが不可欠です。
注意点②土地活用の方法を考える必要がある
固定資産税の負担増を考えれば、解体後の土地をただ放置しておくのは得策ではありません。増えた税金を支払い続けるだけの「負の資産」になってしまいます。そうならないためにも、解体する前から、その土地をどのように活用して収益化するかを具体的に計画しておくことが重要です。
初期投資が少なく始めやすい駐車場経営や、より高い収益を目指せるアパート経営、あるいは売却するなど、その土地の立地や広さに合った最適な活用方法を見つけましょう。
注意点③土地のメンテナンスが必要になる
建物がなくなっても、土地の管理義務がなくなるわけではありません。更地を放置しておくと、すぐに雑草が生い茂ってしまいます。雑草が繁茂すると、景観を損なうだけでなく、害虫の発生源になったり、ごみの不法投棄を誘発したりする原因にもなり、近隣からのクレームに繋がる可能性があります。
定期的な草刈りや除草剤の散布など、土地をきれいに保つためのメンテナンスが継続的に必要になることを覚えておきましょう。駐車場として活用すれば、こうした管理の手間も軽減できます。
空き家を解体する際に業者を選ぶポイント
煩雑な解体手続きをスムーズに進め、工事を成功させるためには、信頼できるパートナー、つまり優良な解体業者を選ぶことが最も重要です。数ある業者の中から、どこに依頼すればよいか、選ぶ際のポイントを解説します。
ポイント①解体方法を確認する
解体工事には、重機を使って一気に壊していく「機械解体」と、職人が手作業で丁寧に解体していく「手壊し解体」があります。費用が安く工期が短いのは機械解体ですが、住宅が密集している場所や、前面道路が狭く重機が入れない現場では、手壊し解体が必要になります。また、再利用できる建材を分別しながら行うなど、環境に配慮した解体を行っているかも、業者を見極めるポイントになります。現場の状況に合った、最適な工法を提案してくれる業者を選びましょう。
ポイント②複数の業者から相見積もりを取る
業者選びで絶対に欠かせないのが、「相見積もり」です。最低でも3社程度の業者から見積もりを取り、金額や工事内容を比較検討しましょう。解体費用には定価がなく、業者によって金額は大きく異なります。相見積もりを取ることで、適正な価格相場がわかり、不当に高い業者を避けられます。
ただし、単に「一番安い」という理由だけで選ぶのは危険です。「〇〇一式」といった大雑把な見積もりではなく、各工事項目が詳細に記載されているか、担当者の対応は誠実か、質問に的確に答えてくれるかなど、総合的に判断して、最も信頼できる業者に依頼することが大切です。
関連記事:空き家の解体にかかる費用の相場は?費用を抑える方法も解説
空き家を解体する際の手続きは事前に手順を調べミスなく調べよう
この記事では、空き家を解体する際に必要となる一連の手続きについて、工事前から工事後、そして相続が絡むケースまで、詳しく解説しました。
解体には、建設リサイクル法の届出やライフラインの停止、近隣挨拶といった事前準備から、工事完了後の建物滅失登記まで、数多くの手続きが伴います。一つ一つは難しいものではありませんが、その数が多いため、全体像を把握しておくことが非常に重要です。
特に、解体後1ヶ月以内に行う「建物滅失登記」は、怠ると罰則や税金面での不利益があるため、絶対に忘れてはならない手続きです。
これらの煩雑な手続きを、ミスなくスムーズに進めるためには、信頼できる解体業者をパートナーに選ぶことが何よりも大切です。各種届出の代行はもちろん、施主がやるべきことについても的確なアドバイスをくれる業者であれば、安心して任せることができます。
手続きの壁を乗り越え、無事に解体が完了すれば、その土地は駐車場経営をはじめとする、新たな価値を生み出す資産へと生まれ変わります。






