老朽空き家の増加は、防災・防犯面や景観への影響から、近年社会問題化しています。
空き家をそのままにしておくと、倒壊の危険や犯罪者に利用されるリスクから、行政から“特定空家等”に指定されるおそれがあります。
かといって、更地にしたら固定資産税の大幅負担増は免れません。
そこで本記事では、固定資産税の仕組みや、更地の固定資産税を抑える方法を紹介します。
空き家の処分方法を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
更地の固定資産税とは
固定資産税というと、建物にかかる税金というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
多くの方がご存じの通り、自己名義のアパートやマンションはもちろん、住んでいない空き家を所有していると固定資産税がかかってしまいます。
しかし、固定資産税は、土地や家屋といった“固定資産”の所有者に対して課される税金(地方税)です。
土地だけ所有していても課税されますし、さらに空き家が建っている土地より更地のほうが税率が高いのです。
更地の土地は、税制上もっとも不利な状態だと覚えておいてください。
固定資産税の計算方法
それでは、固定資産税の計算方法について説明します。
固定資産税 = 固定資産の価格(課税標準額)× 税率1.4%
税率1.4%は標準税率のため、自治体によっては異なる場合もあります。
“課税標準額”とは、市町村が決定する固定資産税評価額(1年に一度郵送で通知される)をベースに決まります。
これは建物がある場合と更地の場合で算出方法が異なるので、それぞれについては後述します。
参照元:総務省「固定資産税」
更地の固定資産税が高くなる理由
空き家が立っている土地より更地の固定資産税が高くなるのは、“小規模宅地の特例”が適用されないためです。
こうした軽減措置を受けられずに、固定資産税(および都市計画税)を満額支払うことになる更地が、税制上いかに不利であるかは明白です。
固定資産税の具体例
それでは、更地かそうでないかで固定資産税がどれほど変わるのかを具体的に見ていきましょう。
建物を所有している場合
建物のある土地を所有している場合は、課税標準額が以下のように軽減されます。
課税標準額軽減率
区分 | 軽減率 |
小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡以下の部分) | 固定資産課税標準額×1/6 |
一般住宅用地(住宅1戸につき200㎡以上の部分) | 固定資産課税標準額×1/3 |
商業地(駅前などの商業エリアでの店舗等) | 固定資産課税標準額×60~70% |
一般的な民家のほとんどが“規模住宅用地”に区分されます。
商業地の課税標準額の減免が少ないのは、土地のポテンシャルが住宅用地より高く、収益性が大きいためです。
小規模宅地の特例は固定資産税評価額が200㎡以下の部分(または全部)について、1/6になる軽減処置です。
1/6になるのは固定資産税の評価額で、これに負担水準(70%)と税率(1.4%)をかけるので、更地にしても固定資産税額が6倍になるわけではありません。
それでもこの軽減措置がなくなる影響は甚大です。
小規模住宅用地の特例があった場合、この住宅を取り壊して更地にしてしまうと、固定資産税は概ね3~4倍に膨れ上がることになります。
土地のみを所有している場合
建物がない更地の場合の課税標準額は下記の通りです。
駐車場やコンテナなどの暫定利用の場合も更地に含まれます。
更地(駅前などの商業エリアでの店舗等)の課税標準額= 固定資産税評価額×60~70%
水準としては商業地に建物を所有しているケースの課税標準額と同じ程度といえます。
この60~70%への減額は、負担調整(水準)とよばれる措置で、地価が急騰して宅地の課税標準額に反映した場合、固定資産税の増額に歯止めをかける措置です。
宅地の課税標準額 = 土地の固定資産税評価額×70%
市町村によって若干異なりますが、宅地(および宅地の更地)の場合は、多くのケースで固定資産税評価額の70%相当額を課税標準とみなして計算することになっています。
住宅用地の特例適用外の空き家
更地の固定資産税が高いからといって、空き家でもなんでも建物が建っていれば安くなるというわけではありません。
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家特措法)で、特定空家等への対策が決まったからです。
これにより、長年放置され、管理状態が極めて悪い空き家は、住居と認められず法律により“特定空家等”に指定される可能性が出てきました。
この特定空家等に指定されてしまったら、課税標準額の減免はなくなり、空き家を残しておく意味はゼロになります。
それどころか、建物への固定資産税も課税されるので、結果的に更地よりも高くなってしまいます。
「相続した古い実家が遠くて管理できない」といった方は、うっかり特定空家等に指定されないよう、早めのチェックと対策をおすすめします。
特定空家等に指定される空き家の特徴
それでは、どのような状態の空き家が特定空家等に指定されやすいのでしょうか。
空き家特措法では、次の4つの状態と認められる空き家を特定空家等と定義しています。
特定空家等に指定される状態4例
- そのまま放置すると倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すると著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
このような状態の老朽空き家を放置していると、特定空家等に指定されなくとも近隣住民への迷惑につながることは間違いありませんので、適切に管理する必要があります。
しかしながら、特に地方における著しい人口減の影響で、全国的にこうした迷惑空き家が増加し大きな社会問題となっているのが現状です。
特定空家等に指定されるまでの流れ
行政から特定空家等に指定されるまでには、次のような流れがあります。
特定空家等に指定されるまでの流れ
- 空き家の調査
- 特定空家等に指定
- 助言・指導
- 勧告
- 命令
- 行政代執行
行政が調査した結果、特定空家等に指定されてしまったとします。
それでも、助言・指導の段階で所有者が空き家を適切に改善、処置すれば、特定空家等から除外してもらえる可能性が大です。
しかし、勧告を受けると、住宅用地の特例が適用されなくなってしまいます。
助言・指導を“最後通告”と受け止め、すぐ適切な対応を取りましょう。
勧告を無視して命令にも応じなかった場合は最大50万円の罰金が科せられるだけでなく、最終的には行政代執行として、自治体が空き家を解体することになります。
この解体費用は税金で賄われたうえで、その全額が空き家の所有者へ請求されるため、安易な考えで無視することは避けましょう。
解体費用として使われた税金の支払いを拒むと、これから説明する税金滞納と同じく車や家などの財産を差し押さえされてしまうおそれもあります。
こうした事態に至らないよう、空き家の適切な管理、あるいは処分を速やかに行う必要があるのです。
固定資産税を滞納した場合
使わない空き家や更地を持て余している方は近年増えていますが、ただ所有しているだけでは固定資産税を生む“負の資産”になってしまいます。
もし「住んでいないから」「お金がないから」といった理由で固定資産税を納税せずに滞納した場合、どのようなペナルティが待っているのか見ていきましょう。
延滞金の発生
税金を滞納すると、当然ですが延滞金が発生します。
固定資産税ももちろん例外ではありません。
利率は2022年1月1日~2023年12月31日までの期間では、納期限の翌日から1か月間が2.4%、それ以降は8.7%と利率自体は極端に高いとはいえません。
しかし、固定資産税は通常、額が大きいので、支払う延滞金も多額になっていきます。
催促・催告書の送付
固定資産税を滞納すると、納期限から20日以内に督促状が送付されることが法律で定められています。
この督促状にかかっている100円の手数料も、税金と一緒に支払うことになります。
督促状が届いても納税しなかった場合には、最終的な納期限が記載された催告書が内容証明郵便で送付され、その期限を過ぎると「差し押さえ」手続きが始まるという流れです。
財産調査
督促状・催告書の送付後も固定資産税が支払われなかった場合には、差し押さえの準備として、財産調査が行われます。
給与所得や預金、株式、保険、家財など、税金の回収のために差し押さえできるあらゆる財産の内容が調べ上げられます。
差し押さえ
財産調査終了後に納税されていないと、差し押さえが実行されます。
これはどのような理由でも、拒否することは叶いません。
換金できる資産がない、あるいは固定資産税を支払えるほどの資金にならないと、所有の土地や建物が差し押さえの対象となり、競売にかけられます。
こうなる前に納税することが重要ですが、なかにはどうしても支払いに必要な現金で用意できない人もいるでしょう。
少しでも固定資産税の負担を抑える方法はあるのか、次章でその方法をご紹介します。
更地の固定資産税を抑える方法
更地の固定資産税を抑えるには、さまざまな方法があります。
順に説明します。
土地を売却する
利用していない土地であれば、売却して手放してしまいましょう。
そうでないと、固定資産税が課税されつづけることになります。
土地を売却してしまえば、固定資産税の納税義務から解放され、売却資金で収益不動産を購入することもできます。
ただし、土地に空き家が建っている場合は、解体費用がかかるうえ、更地にしても売れやすくなるだけで土地の買取金額が上がるわけではないので注意が必要です。
取り壊し・竣工日程を工夫する
現在、所有する土地の空き家を取り壊して、新しい住まいを建てたいと考えている場合は、1月1日以降に取り壊し、新築は年内に間に合わせるようにすると有利です。
なぜかといえば、住宅用地の特例が適用されて、税金を抑えられるためです。
旧年中に住宅を取り壊すと、翌年の1月1日時点は更地の状態なので、住宅用地の特例が適用されません。
これが1月1日を過ぎてから取り壊せば、その1年間は住宅用地の特例が適用され土地の固定資産税は安いままの状態です。
つまり、1月1日の時点で建物がある状態にしておくことがポイントということです。
取り壊しが早く1月1日には更地になっていたら、2年目・3年目と、土地の固定資産税が高くなってしまいます。
しかし、1月1日を過ぎてから取り壊せば、1年目から3年目までずっと土地の固定資産税は安くなったままとなるのです。
一般的な住宅の場合、取り壊しにかかる期間は1~2か月で、新築に要する期間は2階建ての戸建てやアパートの場合は3か月程度です。
マンションでもない限り、1年の間に解体・新築を行うのは十分に可能なため、工事」期間を逆算して工事を開始するよう計画的に計らいましょう。
共同住宅を建てる
アパートや賃貸マンションなどの共同住宅を建てる場合も、土地の固定資産税が安くなります。
“共同住宅用地特例”という税制優遇措置が適用され、居住部分の割合に応じて評価額が軽減されます
共同住宅を建てたときの固定資産税減税措置は、以下の通りです。
共同住宅建設に関わる減額率
種類 | 居住部分の割合 | 減額率 |
下に掲げる家屋以外の家屋 | 1/4以上1/2未満 | 0.5% |
1/2以上 | 1.0% | |
地上階数5以上を有する耐火建築物である家屋 | 1/4以上1/2未満 | 0.5% |
1/2以上3/4未満 | 0.8% | |
3/4以上 | 1.0% |
居住部分の割合は、居住部分の床面積 ÷ 家屋の総床面積で計算します。
住宅ほどではありませんが、共同住宅を建てることにより土地の固定資産税が安くなります。
新築住宅にも減額措置がある
令和8年3月31日までに新築された住宅には、減額特例が適用されます。
良質な住宅の建設を促進するため、新築住宅にかかる固定資産税を3年間(マンションの場合は5年間)、2分の1に減額する措置です。
特例内容は、一般住宅と認定長期優良住宅で異なります。
新築住宅特例(一般住宅分)
住宅の種別 | 期間 | 減額割合 | 対象床面積 |
一般の住宅 | 3年間 | 2分の1 | 居住部分に係る床面積で、120m2が限度(120m2を超えるものは120m2相当分まで) |
3階建て以上で耐火構造の住宅(マンション) | 5年間 |
3階建て以上で耐火構造の住宅(マンション)
住宅の種別 | 期間 | 減額割合 | 対象床面積 |
一般の長期優良住宅 | 5年間 | 2分の1 | 居住部分に係る床面積で、120m2が限度(120m2を超えるものは120m2相当分まで) |
3階建以上で耐火構造の長期優良住宅(マンション) | 7年間 |
特例が終了する4年目(マンションの場合は6年目)からは、固定資産税の額が通常に戻されますが、増税されるわけではありません。
リノベーションして貸し出す
└
リノベーションして貸し出すとは、築年数の経った古民家の内装や設備、間取りなどをリノベーションして賃貸物件として活用することです。
通称、”リノベ物件“とよばれるものです。
間取り、水道管、排水管、冷暖房換気設備の変更など大規模な工事を行うので、大きな出費を伴います。
ただ、賃借人が見つかれば、費用回収は十分可能です。
空き家として取り壊すのでなく、民家として再生できるので固定資産税面での優遇を受けられるほか、デザイン性に富んだ物件として高い賃貸収入を得ることができるからです。
駐車場として活用する
駐車場経営は、さまざまな土地活用法のなかでも少ない初期費用で始められるので人気があります。
住宅用地の特例適用外ですが、駐車場の利益をそのまま固定資産税の支払いや生活費に充てられるので、更地にしておくより有利です。
また、将来、土地を別の用途に変更する際も、出口戦略を立てやすく転用もスムーズです。
賃貸住宅を建てて経営する場合は、初期費用が高額になることに加え、収入を得られるまで長いリードタイムを要します。
「できるだけ初期費用を抑えて、なるべく早く土地活用で収益を上げたい」という方には、駐車場経営がおすすめです。
駐車場運営会社に土地を貸してコインパーキングにする「一括借り上げ方式」にすれば、工費の負担もなく毎月一定の賃料を得られるので、初心者の方でも取り組みやすいはずです。
更地にした土地は税制優遇なくなり固定資産税が大幅に増加する
本記事では、更地の固定資産税について取り上げました。
更地の固定資産税は、小規模宅地の特例が適用されないため、使っていない空き家を取り壊すと、固定資産税負担はそれまでの3~4倍となります。
ただし、老朽空き家をいつまでも放置していると、特定空家等に指定され改善・解体の実施を迫られるほか、固定資産税の満額支払いや、行政処分を受けることになってしまいます。
こうした措置を避けるには、土地を売却したり、共同住宅を建てたり、リノベーションして賃貸収入を得たりといった方法がありますが、駐車場経営もその一つです。
コインパーキング経営をお考えなら、創業50年の老舗・ユアーズ・コーポレーションにぜひご相談ください。