COLUMN LIST 土地の相続放棄はできないの?不要な土地の手放し方を解説

             
公開日 2024.08.07 更新日 2024.08.28
    

“遺産相続”というと、羨ましく聞こえますが、できれば相続したくないものもあります。
親の残した債務の継承はもちろんですが、使い道に困るような土地もその一つですね。
この場合、一旦相続して、引き取ってからすぐ売却、譲渡してしまうか、もしくは相続そのものを放棄するという手があります。

 

では、「土地だけいらない、ほかの不動産やお金は欲しい」というのは通るのでしょうか?
本稿ではそのあたりを掘り下げて解説します。

対象を限定した相続放棄はできない

もし、なんらかの事情で土地を相続したくない場合は、相続を放棄するという手があります。
相続を放棄してしまえば、遺産を一切相続せずに済みます。

 

ただし、「土地はいらない、ほかの財産は相続したい」という“わがまま”を国は聞いてくれません。
相続放棄とは、相続財産に関するすべての権利義務を放棄するということだからです。

 

被相続人の債務を引き継ぐ必要はなくなりますが、自身が欲しくない相続財産だけを選んで相続放棄するということは認められていません。

 

遠方の土地や、立地的に買い手が付きにくい土地、使途がみつからない土地など、相続したくない土地があれば、ほかの財産リストをみてから相続放棄するかどうか検討しましょう。
ともあれ、どうしても相続したくない土地がある場合は、相続放棄は選択肢になります。

相続の仕組みと選択肢

ここでは相続手続きについて、簡単に触れておきます。
法的な相続は、被相続人が亡くなって7日以内に行う死亡届提出、3か月以内の遺言書の検認手続きに始まります。

 

相続放棄の手続きも相続発生から、3か月以内に行わなければなりません。
もっとも期限が長いのは遺族年金の請求で、有効期間は被相続人が亡くなって5年以内です。

 

手続きの大まかな流れは、以下の通りです。

 

【相続手続きの流れと期限】

相続手続きの流れ 期限(相続発生日からの期限)
被相続人(故人となる方)の死亡
死亡届の提出 7日以内
遺言書の有無を確認、検認手続き
相続人の調査
相続財産の調査、確定
単純承認、限定承認、相続放棄の選択
3か月以内
所得税の準確定申告 4か月以内
遺産分割協議書の作成遺産名義変更
預貯金や有価証券等の名義変更
不動産の名義変更
各種、財産の名義変更相続税の申告
10か月以内
遺留分侵害額請求 1年以内
健康保険の埋葬料、葬祭量請求 2年以内
生命保険金の請求 3年以内
遺族年金の請求 5年以内

法律で決められた各手続きの期限を過ぎないように、注意しましょう。

土地相続を放棄した場合のメリット・デメリット

続いては、相続放棄を選択した場合の主なメリットとデメリットを整理しておきましょう。
相続できる資産を手放すことで損をすることもあるかもしれませんが、土地相続を放棄すると、それなりのメリットも多々あります。

メリット

相続放棄を選択した場合、以下のようなメリットが挙げられます。

【土地相続を放棄する主なメリット】

  • 土地の管理から解放される
  • 被相続人の債務(ローン、借金、家賃など)を負わなくて済む
  • 遺産分割協議への参加が不要で相続人間の相続トラブルも回避
  • 相続を機に事業継承する場合、事業に必要な財産を集中して取得できる

土地を相続したくないのは、「土地自体に利用価値が乏しい」「遠方にありすぎて管理できない」「被相続人の債務まで相続したくないから」という理由が上位を占めています。

 

相続したら固定資産税支払いも負担になるので、土地というのは人によっては、まさに“負の遺産”になりえるのです。

 

相続放棄は、これらの手っ取り早い解決策として選択されるわけです。

 

関連記事:固定資産税の仕組みを解説!いくら払うのか計算方法も紹介!

デメリット

一方、土地相続放棄のデメリットは次の通りです。

【土地相続を放棄する主なデメリット】

  • すべての財産を相続する権利を失う
  • 被相続人と同居していた場合、退去が必要になるケースもある
  • 相続順位が変動してトラブルの原因になるリスクがある
  • 被相続人の生命保険金を受け取る場合、非課税枠(債務控除や相次相続控除など)が利用できない
  • 家庭裁判所での手続きが必要(専門家へ依頼する場合は費用も発生)

相続放棄を選択した場合は撤回できないので、慎重に考える必要があります。
家庭裁判所とのやりとりなど、手続きも結構面倒なのです。

 

順位変動を巡る相続トラブルは、自身が相続を放棄すれば次の順位の人が相続人となることに伴うもので、放棄が続けば思わぬ人がリストアップされてくる可能性もありえます。
そうした場合、相続トラブル回避に向け関係者間で話し合いが必要になるかもしれません。

相続で要らない土地を手放すには

さて、そんな相続人の誰も欲しがらない土地を相続してしまったら、その土地を手放すことはできるのでしょうか?
相続放棄以外にも、その方法はあることはあります。

 

以下で、順にご紹介していきます。

近隣の人にもらってもらう

相続放棄の形を取らずに土地を手放すには、一旦相続登記を行ったうえ、その土地を引き継いだあとに売却や寄付を行うという方法があります。
地方の田畑であれば、近隣の農家の方が引き受けてくれる場合もあるので、自治体に関連情報がないか問い合わせてみましょう。

 

農家以外でも、相続した土地の近隣の人であれば、将来の土地利用をにらんで買取を検討してくれるかもしれません。
まずは近隣の土地所有者に打診してみることが、不要な土地を手放す第一歩といえるでしょう。

市町村に寄付する

土地が所在する市区町村に寄付、という手もありますが、当の市区町村が受け取ってくれる可能性はかなり低いです。
現金と違って土地は、管理コストが発生するためで、議会に寄贈があった旨を報告すれば住民への建前上、その活用法なども考えねばならず、役所としてはいらぬ手間がかかります。

 

可能性がまったくないわけではないので、問い合わせてみてもよいでしょうが、あまり期待しないほうがよいでしょう。

 

また、被相続人が遺言書で市町村に遺贈する、とした場合も同様に、市町村から断られる可能性があります。
遺贈だからといって特別扱いはされません。
不要な土地を処分するというのは、やはり簡単なことではないのです。

相続放棄する

上記2つの方法がうまくいかなかった場合は、いよいよ相続放棄を視野に入れましょう。
このあとに詳しく解説していきます。

「相続土地国庫帰属法」を活用する

「相続土地国庫帰属法」は不要な土地の放棄を可能にする目的で令和3年4月21日に成立し、令和5年4月28日から施行された法律です。
相続でもらった不要な土地を、条件を満たすことで国庫に帰属することができるので、相続放棄に伴うマイナス面を危惧する方はこの法律を活用すれば、土地の処分が可能です。

 

相続土地国庫帰属法が成立した背景には、近年、社会的に大きな問題となっている“所有者不明土地”の問題があります。
所有者不明土地とは、登記上の所有者が亡くなったあと、名義変更もないまま長年放置された結果、誰の所有なのかわからなくなってしまった土地のことです。

 

所有者が不明だと、それを誰かが利用しようと考えても、誰に許可をとればよいのかわからず、結果として使うことのできない土地となって国土の効率利用を阻害します。

 

そこで、こうした所有者不明土地の問題に対処するため、民法や不動産登記法などが改正され、相続発生後3年以内の相続登記が義務付けられました。
さらに、この義務化と表裏一体となる制度として、相続した土地の放棄を認める相続土地国庫帰属法が制定されたのです。

放棄するには費用が必要、放棄できない土地もある

相続土地国庫帰属法で、土地の所有権を放棄するには、負担金の支払いが条件です。

 

土地の放棄に必要な負担金は、審査手数料のほか10年分の土地管理費相当額諸々で、その費用目安は、法務省の公表資料によれば、次の通りです。

 

【土地の放棄に必要な負担金の目安】

  • 粗放的な管理で足りる原野は約20万円
  • 市街地の宅地(200㎡)は約80万円

また、相続土地国庫帰属法によっても、以下の理由で放棄が認められない土地もあります。

 

【相続土地国庫帰属法によっても放棄できない土地】

  • 建物が建っている土地
  • 土壌汚染などがある土地
  • 担保権などが設定されている土地
  • 通路などで使われている土地
  • 係争地

相続したくない土地が、近隣に譲渡できず、市区長村から寄贈を拒否され、相続放棄も難しいようであれば、将来的に国庫に帰属させる方向を検討しましょう。

相続放棄したほうがよいパターンとは

相続放棄の申請が可能なのは、相続の発生日から3か月以内です(上記表参照)。
この短期間に、被相続人たる親が、どのような財産、負債を残していたのかの全容を把握しなければなりません。

 

遠方で生活していた場合は、親がどんな生活を送っていたかわからないので、非常に手間がかかるはずです。
もし、次のようなケースに該当することが判明した場合は、相続放棄を検討するのも一案です。

 

【相続放棄を検討するケース】

    • 親の高額な借金が判明した場合
    • 相続人間の相続トラブルが必至な場合
    • 被相続人が第三者の連帯保証人となっていた場合

相続放棄を選択するとすべての財産に対する権利が消失しますが、被相続人の“死亡保険金”“死亡退職金”“遺族年金”は受け取ることができます。

 

ただし、死亡保険金や死亡退職金を受け取ると相続税の納付義務が発生するなど、“いいとこ取り”はできない仕組みになっているので注意しましょう。

土地の相続放棄手続きの流れ

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ここからは、土地の相続放棄を行う場合の一連の流れについて説明します。
複数名の相続人がいると、相続に関するトラブルに発展しやすいので、お互いの意見を整理し調整を試みましょう。

ステップ①相続財産を把握する

相続放棄を選択するか否か判断するためにも、まずは相続財産・債務の把握から始めます。
相続放棄手続きは自身で行うか、20~50万円の費用がかかりますが、弁護士や司法書士などに依頼して進めることもできます。

 

以下に該当する場合は、自身で行うことも可能でしょう。

 

【相続財産の把握を自身で行いやすいケース】

  • 明らかな債務超過
  • 相続放棄期限が迫っていない
  • 管理が必要な不動産がない
  • ほかの相続人や次の順位の相続人との関係が良好
  • 相続手続きに必要な書類集めと申述手続きに対応可能

ステップ②必要な書類を揃える

財産内容の把握が終わったら、相続するか放棄するかを決断します。
相続放棄を決めたら、亡くなってから3か月以内に相続人ごとに家庭裁判所に申し立てることから手続きがスタートします。

 

相続放棄の申述手続きに必要な書類は、以下の通りです。

 

【相続放棄の申述手続きに必要な書類一式】

  • 相続放棄の申述書
  • 亡くなった方の除籍謄本一式
  • 相続放棄する方の戸籍謄本
  • 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票

必要書類に不備があれば、家庭裁判所から連絡が入るので、落ち着いて揃えて漏れがないように準備しましょう。

ステップ③“相続放棄申述書”を作成し家庭裁判所へ提出

続いて、裁判所のホームページなどから“相続放棄申述書”をダウンロードし、所定の書式にしたがい記入していきます。
主な記入内容は、申述書提出者の氏名や住所、連絡先、押印(認印可)、書類作成日、被相続人名、相続の開始を知った日、相続放棄理由、相続財産の概略などです。

 

作成し終わったら、速やかに家庭裁判所に提出しましょう。

ステップ④家庭裁判所から“照会書”が届いたら記入のうえ返送

相続放棄申述書の提出後、“照会書”が2週間ほどの間に郵送されてくるので、記載された質問項目へ記入し、返送してください。
相続放棄を認めるか否かの判断材料になる重要な書類なので、不備や間違いがないか確認のうえ、きちんと返送しましょう。

ステップ⑤“相続放棄申述受理通知書”届いたら相続放棄承認

相続放棄申述書や照会書に不備がなく、相続放棄が承認されると“相続放棄申述受理通知書”が交付、郵送されます。
この通知書をもって、相続放棄が承認されたことになります。
相続財産に負債があった場合は、相続債権者へこの通知書のコピーを必ず送付しないとなりません。

 

なお、相続放棄したら、次の順位の法定相続人に相続権が移行するため、ほかの相続人に必ず連絡を入れましょう。

相続放棄せず限定承認という手もある

親に借金があるので相続放棄したい、という場合には、限定承認という方法もあります。
限定承認とは、プラスの遺産(財産)で相殺できる範囲内でマイナスの遺産(債務)を相続する方法で、債務継承の負担を回避する策として認められています。

 

最終的に資産と借金のどちらが多いのか判断が難しい場合に選択されることが多く、相続放棄同様、3か月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。
相続放棄は相続人単独で手続きできますが、限定承認はすべての相続人が介して申し立てしなければなりません。

未登記の土地だった場合は手続きが煩雑に

親の土地を相続したはずが、実は未登記で先代名義のままだったというケースは少なからずあります。
このような状況でその土地を放棄する場合には、遡って相続手続きからやり直す必要があります。
名義変更していない不動産が残っていた場合、相続放棄の手続きが煩雑なので簡単に手放せないのが難点です。

 

このようなケースは弁護士や司法書士などの専門家に依頼して、早目に解決するよう図りましょう。

相続放棄ができなくなるケースとは

以下に該当する場合は、原則的に相続放棄はできません。

  • 相続放棄の期限(3か月)を過ぎてしまった場合
  • 相続財産の一部を使ってしまった場合
  • 相続財産の一部を売却処分してしまった場合

相続放棄する場合は、期間内に迅速に手続きを済ませ、財産には一切手をつけてはなりません。

 

当たり前のことですが、当座の資金需要などが発生しても、誘惑に負けず所定の方針どおりにことを進めましょう。

相続放棄手続きは3か月以内に

相続財産のなかに、あまり価値のない土地や管理しにくい土地があった場合、その土地だけを相続せずに、ほかの財産を相続することはできません。
相続放棄とは、被相続人の持つ財産・債務のすべてをひっくるめて権利・義務を手放すことだからです。

 

土地の処分には、時間がかかります。
子どもに相続させたくない土地をお持ちであれば、権利関係を整理したうえ、近隣に譲渡するか、相続放棄するか、国庫に帰納するかを早めに考えておきたいところです。
相続放棄する場合は、相続の発生から3か月以内に手続きすることになります。

 

相続放棄についてわからない点があれば、ユアーズ・コーポレーションまでお気軽にお問い合わせください。

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